「柩の中の女」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿057

本事件の金田一は名推理、それとも透視能力?

「柩の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫

「金田一耕助の冒険」角川文庫

運送店の店員・白井は、
依頼主からの注文通り、
上野の美術館から
審査に落選した石膏像を
受け取りに来る。
しかしその輸送途中に
荷崩れを起こした荷箱の中では、
破損した石膏像から
べっとりとした血糊が
漏れ出していた。犯人は…。

横溝正史金田一耕助シリーズ
短編集「金田一耕助の冒険」の一篇です。
短篇ながらも意外性のあるトリックに
うならされます。

【事件簿File-057「柩の中の女」】
〔事件発生〕
昭和33年3月(東京)
〔依頼人〕
等々力警部(警察への捜査協力)
〔捜査関係者〕
柿崎捜査一課長
…警視庁捜査一課長。
望月刑事・新井刑事
…警視庁捜査一課刑事。
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
古垣敏雄
…運送店に落選作品の運搬を依頼した
 芸術家。
森富士郎
…敏雄の旧友の芸術家。
 天才といわれている。
森和子
…敏雄の元妻。森富士郎に譲渡される。
江波ミヨ子
…石膏像「壺を持つ女」のモデル。
白井啓吉
…運搬中の石膏像から死体を発見。
 運送店の新人店員。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
石膏像から始まる殺人事件

トラックに積み込まれた石膏像から
始まる事件は、
横溝の得意技の一つです。
古くは1936年発表の
「石膏美人」(由利・三津木)から始まり、
1954年の「堕ちたる天女」(金田一)、
同年のジュヴナイル「百蝋仮面」
1957年の「鞄の中の女」(金田一)と、
使用頻度が高くなります。
特に「鞄の中の女」は、
同じ「金田一耕助の冒険」中の
一作なのですが、
こちらは石膏像の中には
死体はありませんでした。
本作品は冒頭から石膏像が破損して
死体が発見されます。
それだけではなく、
メイン・トリックとしても
活用されているのが
本作品の特徴でしょうか。

本作品の味わいどころ②
妻を友人に譲渡する男

石膏像に塗り込められていた和子は、
天才芸術家・森の妻であるとともに、
石膏像搬出の依頼をした
芸術家・古垣の元妻でもあるのです。
しかもなんと古垣から森へと
譲渡されたというのですから、
穏やかではありません
(ある意味、穏やかか?)。

「妻譲渡」といえば連想してしまうのが
文豪・谷崎潤一郎佐藤春夫の間で起きた
「妻譲渡事件」。
こちらはいざとなってから
谷崎が妻を惜しくなり(予定していた
女性と結婚できなかったため)、
譲渡をご破算にし、
両者の関係が悪化しました。

本作品の味わいどころ③
名推理、それとも透視能力

本事件では、
金田一が事件のからくりを見抜き、
スピード解決に至ります。
まるで第二の死体が隠されていた場所を
透視したかのような早業です。
トリックが見事すぎて、
こうでもしなければ事件が
解決しなかったからでしょう。

「○の中の女」で統一された
本書「金田一耕助の冒険」、
本作品の場合、
タイトルは「石の中の女」でも
よさそうなものですが、
石の中には女だけでなく
男も隠されていたせいでしょうか、
最初の石膏像が収められた
「柩」が採用されています。
一篇一篇に趣向の凝らされた
短編集です。
横溝ファンなら見逃されません。

〔関連記事:石膏像から始まる事件〕

〔本書収録作品一覧〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」

(2018.5.1)

〔関連記事:金田一&等々力警部の事件〕

〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。
旧版は下の通りです。

「金田一耕助の冒険」昭和時代の表紙

新版はデザインが
マイナー・チェンジしています。

(2022.6.25)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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